嗜銀顆粒性認知症

80代前半 男性

 

娘様が父親の認知症に気づいたのは周囲からの指摘でした。

自治会の日程を間違えたり、行った行事を忘れていたりしたそうです。

奥様は大分前に亡くなり、父と娘の二人暮らしです。

その翌年の夏、大手スーパーで本人が万引きをし警察に逮捕されたことで事態が動き出します。

娘が迎えに行くと、実は6年前にも万引きで逮捕されていて、その時は本人の弟が迎えに行っていたことがわかりました。

その翌年、検察から呼び出しがあり、どうやら繰り返していたようで本人は監視カメラの映像を見ても「やっていない」と否認したそうです。検察からは再度犯行があった場合、罰金か拘留となる可能性が高いと告げられたそうです。

検察から本人が認知症の状態にあるのかどうかの事実を確認する必要があるので、その確認のために主治医に診断してもらうよう指示がありました。

再犯の場合の判断に影響があるのかもしれません。

 

スーパーでの万引きを防ぐことが最重要課題となりましたが、本人への説諭で解決する様子はありませんでした。記憶障害もあり、その場でわかったと言っても、すぐに忘れてしまうからです。

また、その大手スーパーからも出入り禁止とはっきりと告げられるなど、理解を得られる様子はありません(実際、本人がその後行ってしまった際、警備員に追い返されています)

そこで、月曜日から金曜日までデイサービスを利用し、土・日曜日は娘様が見守りすることで、スーパーに行く機会を極力減らすこととしました。

利用はスムーズで最初の2か月は拒否なく来ることができるようになりました。

 

しかし、デイサービスに行くことを次第に嫌がるようになってしまいます。

易怒性が高くなり、妄想で「仙台に行かなくてはならない」などお迎えに行っても拒否されるようになりました。

そこで、専門医に主治医を変更し症状を詳しく伝えたところ、嗜銀顆粒性認知症で矛盾はなさそうと診断されました。そこから順次服薬の内容を調整して行きました。

 

それと同時に介護も工夫しました。

地域ケア会議を開催してもらい、地域包括のスタッフと、ご家族、ケアマネジャー、デイサービスのスタッフが同席しました。万引きの現状など本人に理解してもらうことが目的です。ご本人には少し気の毒なこととも考えましたが、ご本人はまだ記憶力が少し残っている状態と判断できたので、そこにかけてみました。

また、ご家族には娘様のほかに実の弟さんもお呼びしました。ご本人が娘様のことは馬鹿にしていてあまり話を聞かない様子が見受けられたことと、弟さんのいうことは比較的聞く耳を持っているとの話だったからです。

そこで現状の確認とデイサービスに行くことの意味の理解を促しました。

幸いなことに参加者の暖かい説得により本人は理解したようです。

 

この日を境に次第にデイサービスの利用に応じてくれるようになります。

2か月ほどの間、通えたり通えなかったりしましたが、服薬の効果も次第に現れ、易怒性もなくなり、また、デイサービスのスタッフの熱心な声掛けにより、結果、毎日利用できるようになりました。

懸念だった入浴や、衣服の着替えなど適切にできるようにもなりました。

現在3年半が経過しようとしていますが、少しずつ認知症が進行しているものの、穏やかにご自宅で暮らすことができています。

 

嗜銀顆粒性の認知症の初期には、「万引き」や「店の備品」を盗ってきてしまうなどの症状がみられることが多いように感じます。初期には記憶力はある程度残っている状態なので「盗らないよう」に説得を試みますが多くの場合通用しません。同時に易怒性がみられることが多く説得するたびに怒りが強くなってしまう状況になってしまいます。

 

このような時には、専門医による治療を受け服薬のコントロールをし、適切は対応のできるデイサービスに通うことにより物理的に万引きできる機会を減らすことが大切です。

また、このタイプの認知症は記憶力がある程度残っていることが多いので、ユマニチュードなどを参考に丁寧な対応をし、ご本人の納得を得る努力がとても大切となります。