90代 前半の女性 ご家族と同居 軽度認知症

 

 この方は特別養護老人ホームに入居されていましたが、ご家族の介護体制が整ったことから、ご家族と同居されることになりました。ご家族はご本人が認知症になってひどくなることをとても心配されていました。

 ご本人はご家族との同居を「迷惑をかけてしまって」と気にされていて、抑うつ傾向がみられました。日常生活はほぼ自立されていましたが、金銭の支払いなど、お金の支払いの仕方がわからなくなっていたのが特徴的でした。 

 この方が入居されていた特別養護老人ホームでは、個人的に必要なものを手に入れるにはご家族に届けてもらうか、施設内の売店で購入するかだったそうです。売店は「つけ」での購入だったため、金銭を支払うことはその都度なかったそうです。3年間の入所生活でお金を支払う機会がなかったことから、お金を支払うという機能が衰退してしまったのだと考えられました。

 ご家族も初めての同居であり、どのように家族関係を作っていけばいいのか困惑している様子でした。ご本人も遠慮から自分の居場所を見つけられず、関係性はぎこちないものでした。

 ご本人からのヒアリングで、ご家族の役に立ちたいとの希望が強いものの、家でのことはさせてもらえない状況であることがわかりました。ご本人はそれならば、たまにお土産を嫁さんに買っていくことで喜んでもらいたいと考えるようになりました。

 そこで、「ご家族との人間関係をより良くしたい」と「運動時間を作る」と「金銭の支払いの能力を取り戻す」ことを課題に挙げ、それを解決するために「職員と週に1回スーパーまで出かけ、嫁様にお土産を買い持って帰る」というプランを立てました。

 しかし、長く入所していた影響で、買い物をする体力が低下していることや金銭の支払いの自信がないことから、すぐにはプランの本題に入れませんでした。そこで、下準備としてデイサービスの昼食の食材の毎日の買い物に同行してもらい、歩くことと金銭の支払いのトレーニングを実施しました。具体的にはできるだけ歩き、疲れたら車椅子に乗ることをしたこと。それと、職員の代わりに昼食の食材の代金をデイの財布から支払ってもらうということを行いました。

 3か月後には、金銭の支払いの自信がつき、歩行の能力もお土産を買うのには十分になりました。

 やはり、お土産を買って帰ることに降り、自分の居場所が感じられ、会話も増えたそうです。

 今では家族関係も良好になり、お土産を買って帰る必要もなくなりました。

 認知症の症状も進行せず、買い物は、ご家族と行くことができるようになり、楽しまれているようです。